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A Jacket Well Worn: 吉川和人さん|木工作家
横浜の工房と三重県大台町の豊かな森の2カ所に拠点を構え、木が持つ個性を生かした日用品や家具、オブジェなどを手がける木工作家・吉川和人さん。
今回は大台町の工房に訪れ、トヨタ自動車との協働プロジェクトをきっかけに始まった現地での活動や、木という素材に対する想いについて、お話を伺いました。
木工作家として活動するようになった経緯を教えてください。
ものづくりは元々好きで、将来は絵か映像か写真に携わりたいと思っていました。大学生の時にミッドセンチュリー系の家具を扱うお店で修理のアルバイトをしていて、それをきっかけにプロダクトが好きになったんです。
家具はアートでもあり、かつ道具でもある。その両方を兼ねているところが自分に合っていると感じて、デザイン系の家具屋に就職し、12年ほど勤めました。最初の8年は法人営業を経験し、その後1年間休職して海外に住み、帰国してから企画部に移りました。企画部ではオリジナル商品の開発や買い付けを担当し、毎年イタリアで開かれるサローネ(世界最大規模の家具見本市)にも足を運んでいました。
工場や職人さんとやり取りする機会も増えて、彼らと話しているうちに、「本当は、自分自身でつくるほうをやりたいんだな」と感じるようになったんです。 ちょうどその頃に東日本大震災があって、「人生、いつ何が起こるかわからないから、やりたいことをやろう」と会社を辞め、岐阜県立の森林文化アカデミーに2年間通いました。
岐阜の学校を選ばれたのはなぜですか?
岐阜は木の家具の産地としても有名ですが、森林資源が豊かで、伝統的に木工が盛んな地域です。
森林文化アカデミーは林業を管轄する県の「林政部」が運営していて、単に職人を育てるのではなく、林業や山と都市計画をつなぎ、木を生かす仕組みそのものを変えていける人材を育てる学校だったんです。そういう面白い取り組みをしている学校だったので選びました。
着用アイテム:Thornham Mens / ソーンハム メンズ
>>https://www.lavenham.jp/collections/mens-gilets/products/slj2039
三重県大台町に拠点に構えた理由を教えてください。
トヨタ自動車は日本各地に広大な山林を所有していて、三重県大台町にあるこの山もそのひとつです。ただ、せっかくの豊かな森林資源を十分に活かしきれていないという課題がありました。そこでトヨタが「この土地の資源を使って事業を起こす人」をコンペ形式で公募したんです。 僕は「山の木を使った商品開発」と、「市民向けのワークショップや地元の高校での木工授業ができるような拠点を設けること」を掲げ、山の木を活かしながら、森林の魅力を伝える場をつくりたいと提案したところ、採用されました。
最初の3年間は設備や資金面で全面的なバックアップをいただき、この大台町に拠点を立ち上げることができました。 プロジェクトの一環として、地域の活性化も視野に入れ、地元の額縁屋さんとの共同プロジェクトとして、地元の木を使ったミラーなどの商品開発にも取り組みました。
横浜にも小さな工房があるのですが、月に一度ほど大台町に滞在し、大きな材料の荒加工をしたり、地元の事業者さんとやり取りをしたりしています。一度の滞在期間は作業にもよりますが、短いと2泊、長いと1か月ほど滞在することもあります。
この土地に拠点が増えたことで、どんな変化はありましたか?
一般的に、木工家が木材を仕入れるときは、材木屋さんに流通している材料の中から選ぶことになります。でも、山主であるトヨタとつながっていることで、山に生えている木を見ながら「この木を使いたい」と相談できるんです。林業の現場を見たり、話を聞いたりもできる。それが面白いと思いました。
ここは、町の大部分がユネスコエコパーク(生物圏保存地域)に含まれています。生態系にほとんど手を加えずに原生林を保全する「核心地域」があり、その周りに「緩衝地域」、さらにその先には、人が暮らしながら自然と共生する「移行地域」が広がっています。山を保全するだけじゃなくて、そこの木を使いながら、人間の生活に生かしていく。そういうことを、地域全体で管理しているのも面白いと思いました。
あとは、拠点が2つあるとすごくリフレッシュになりますね。都会にいると、目に入るものは基本的に人工物。物の原型は自然界にあると思っているんですが、都会では誰かがつくったものばかり見ているということなんですよね。でも、ここに来ると、人工物は電柱くらいしかない。デザインのイメージソースがいくらでもあるんです。今、額縁屋さんと一緒につくっているミラーも、隣の川で転がっていた石の形をそのままトレースして、型をつくったものなんですよ。
木という素材に惹かれたきっかけは何ですか?
僕は福島県の郡山市出身なんですが、実家の裏が大きな山で、子供の頃はいつもそこで遊んでいました。弓やツリーハウスのようなものを作ったり、家の隣でキャンプをしたり、とにかくアウトドアと木が大好きでした。その頃の経験もあり、「木ならなんとかなる」という感覚があったんです。
さらに家具屋で働く中で、現場の工場の人たちから素材に対する情熱を学びました。印象的だったのは、ソファに使う革の話です。ハイグレードな革は、塗料が乗っていないので手脂がつきやすく、シワにもなりやすいんです。あるとき「汚れやすい」というクレームが入ったので、それを話したら、職人さんがその革をギュッと握って、パッと手を離したんです。するとシワができるんですが、「シワができなかったらそれはゴムだ。革だからこそ、この手ざわりがある。それがわからないなら買わなくていい」と言われて。
機能性や売りやすさよりも、素材が持っている生々しさや気持ちよさを大事にしていいんだなと、現場の職人たちから学びました。その考え方は、今の木工にも通じています。革と木はすごく似ていて、基本的には生きていた動物、植物の体のままを使っているんですよね。「生と死という官能性が含まれている材料」だからこその魅力があると思っています。
木工作家として、木のプロダクトの1番の魅力はどんなところにあると感じていますか?
“ひとつずつ違う”というところです。大量生産を前提とした工業製品では、木材も均一で節が少ないことが大事なので、それとは正反対の考え方ですね。「この木は反りやすいからここには使えない」「節がかっこいいから、あえて出そう」というように、木の個性に合わせてつくっていく。いわば、材料との“共作”なんです。
森林文化アカデミーの先生にも、「プロジェクトを進めるのはあなただけど、木の個性にあなたが合わせなさい。自分だけの力じゃできないんだよ」と言われました。木の特徴や性質と対話しながら、ものづくりを進めていく感覚を大切にしています。
切った木は、紫外線に当たることで色が変わり、それが味わいになります。例えばこれは僕が12年前、学生時代につくった椅子。ソープフィニッシュという石鹸水を塗るだけの仕上げをしていて、つくりたてはヌメ革のような雰囲気なんですが、12年経つと手の油などでいい風合いに育つんです。こうした経年変化をお客さんに楽しんでもらえるのも魅力ですね。
ご自身が作家という立場になり、ものを選ぶときの視点の変化はありましたか?
作家ものを買うことが増えました。自分で手を動かし、体を痛めたり、怪我をしたりしながらものをつくっていると、作品が自分の分身のように思えてくるんです。だから、作家のものを買うことは、その人の一部を自分の生活に取り入れることなんだな、と考えるようになりました。陶芸やガラス、鉄など、異素材の作家の展示に足を運んで刺激を受けることも多いですし、つくり手の人柄も含めてものを選んでいます。
普段からラベンハムのアイテムを愛用してくださっていますが、どんなところが気に入って選んでくださったのでしょう?
実はラベンハムは会社員だった頃から愛用していて、当時はスーツの上に羽織っていました。軽くてシワにならないので、出張にも畳んで持って行けるし、車に乗るときもクシャッと置けて、重宝していました。
今はまた違う形で活躍していて、作業中にはジレがすごく便利なんです。袖がないので作業もしやすいし、暑いか寒いかわからないような時にもちょうどいいんですよね。今着ているものの前にカーキのジレをかなり長く着ていたんですが、現場で無くしてしまってショックでした。なくなってみると、改めてすごく便利だったんだなと実感しましたね。
「クレイドン」も長く着てくださって、風合いが育っていますよね。
もう3年くらい着ていて、実は私と背丈の近い息子たちと共有しているんです。すごく気に入っているようで、一時期は彼らの方が着ていましたね(笑)。見た目も上品だし、機能性も高いし、学校にもどこかへ出かけるのにもちょうどいいんだと思います。僕は移動中や材料屋さんに行くとき、山のほうへトレッキングに行くときなんかに着ています。
ラベンハムのジャケットはもうひとつ、キャンバス地とナイロンのリバーシブルモデルも持っていて、キャンバス面を表にすれば木を抱えても破れにくいので、屋外での作業に役立っています。ラベンハムは、元々馬具として始まったんですよね。
着用アイテム:Craydon Mens / クレイドン メンズ
>>https://www.lavenham.jp/collections/mens-jackets/products/lv12005/
*現在はジップへ仕様変更されています。
馬にかけるホースラグをつくったのがブランドの始まりです。当時のホースラグはウール製で、濡れると重くなるし乾きも遅く、あまり機能的じゃなかったんです。そこで当時のハイテク素材だったナイロンを使ってキルティングのラグを開発し、それが乗馬用のジャケットなどへと発展したんです。英国の工場で変わらぬものづくりを続けるうちに、いつのまにかクラシックとして定着しました。
進化して生き残るブランドもありますが、ラベンハムは変わらないものづくりを続けてきたことが、長く支持されてきた理由なのかもしれないですね。
そうですね。当時の先端技術だったナイロンキルティングをつくり続けることで、今ではクラシックとして受け継がれています。
一方で吉川さんは、現代的なものづくりに携わるなかで、木の個性を尊重する昔ながらの考え方に立ち返った印象があります。
本当にそうですね。普段、大量生産のものにしか触れていないと、木にはそれぞれ節があったり、木ならではの個性やダイナミックさがあったりすることに気づけないと思うんです。
でも僕は材料に近いところで仕事をしているので、「木って実はこういう表情もあるんだよ」っていうのを伝えられる立場にある。それを楽しんでもらうのが僕の役割かなと思います。
最後に、今後新たにやってみたいことについて教えてください。
今後は“プリミティブなワークショップ”をもっとやっていきたいです。
ただ生えている木を切って、乾かして、刃物で削るという素朴な作業なんですが、それが実はすごく面白いんですよね。不登校の子が集まる学校で授業をすることもあるんですが、驚くほど集中して、夢中になる子が数人出てくるんです。自分が知らなかった「自分が楽しめること」って、意外とあると思うんですよね。
スマホばかり見ている時代だからこそ、素朴なものづくりを通して、“自分を表現する面白さ”や“自分がわくわくできるもの”を、大人にも子供にも見つけてもらいたいですね。
吉川 和人
福島県出身。デザイナーズ家具を扱うカッシーナ・イクスシーに12年在籍したのち、岐阜県立森林文化アカデミーで木工技術の基礎と日本の森林文化を学び、木工作家の道へ。節や年輪、朽ちさえも個性としてとらえ、それぞれの木が生き抜いてきた軌跡を感じさせるような家具やプロダクトを制作している。
INSTAGRAM: @kazutoyoshikawa
https://www.instagram.com/kazutoyoshikawa/
Writer : Moe Shibata
Photographer:Takeshi Sasaki
Editor: Arisa Ogura