A Jacket Well Worn: 橋村雄一さん|建築家

A Jacket Well Worn: 橋村雄一さん|建築家

2026年5月にオープンしたラベンハム 新丸ビル店、佐野プレミアムアウトレット店の設計を手掛けた、建築家の橋村雄一さん。建築に対する考え方にラベンハムが共感したことから、店舗づくりがはじまりました。

 

イギリスの建築設計事務所での経験を持つ橋村さんならではの視点で、ラベンハムのものづくりを捉え、店舗の空間へと落とし込んでいます。今回は建築とものづくりについてお話を伺いました。

 

まずはこれまでの経緯を教えてください。

幼い頃からものづくりや絵を描くことが好きで、高校では美術部に入っていました。

アートや音楽、映画、デザインなど幅広く興味があり、ものづくりに携わりたいという漠然とした思いから多摩美術大学へ進学。卒業後はイギリスへ留学して、そのままイギリスの建築設計事務所に就職しました。2年ほど経験を積んだのちに帰国し、「新素材研究所」などでの勤務を経て、現在は建築設計事務所Studio Hashimuraを主宰しています。

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建築家を目指したきっかけについて教えてください。

初めて「建築家」という存在を意識したのは、安藤忠雄さんです。僕は安藤忠雄さんと同じ大阪出身で、実家の近所にも「住吉の長屋」という初期の代表作がありました。子供の頃は「なんだか不気味な家だな」と思いながら前を通っていて、それが安藤さんの作品だと認識したのは高校生くらいのときです。

その頃、OMA(Office for Metropolitan Architecture)や、ヘルツォーク&ド・ムーロンの出版物を見つけて、それがすごくかっこよくて読み込んでいました。高校の夏の合宿で直島に行く機会もあり、そこで初めて本格的に建築作品を意識して見た気がします。デザイン全般に興味を持っていた中で、建築は芸術的な部分もあり、社会的な面、理系的な面もあるのが面白いと思い、大学進学のタイミングで建築の分野へ進もうと決めました。

ロンドンで建築を学んだ後、イギリスの建築設計事務所で経験を積まれていますが、その経験が現在のお仕事の中で活かされていると感じることはありますか?

例えばずっと日本にいたら“それが当然”と思ってしまうことを「実はそうでもない」と捉えられたり、建築を取り巻く文化や、働き方、暮らし方含め、日本を相対的に、客観的に見られていると思います。

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帰国後は、伝統的な素材や工法を生かした建築を手がける「新素材研究所」にも在籍されていましたが、そこでどんなことを得たと感じますか?

新素材研究所では伝統的な素材や工法を扱っていて、石や木の古材など、すごく希少価値のある素材を使う良さや難しさを身をもって知りました。素材自体にパワーがあるので素晴らしいものができるのですが、それと同時に、誰でも手に入る素材でユニークなものをつくることの面白さも感じました。

その経験があるので、希少価値の高い材料も、安価で簡単に使える材料も、“それぞれの良さがある”とフラットに見られていると思います。

ロンドンと日本、双方での経験をお持ちですが、両者の建築の違いはどんなところにあると感じますか?

ヨーロッパでは建築の歴史を尊重する人が多く、近代以前と以後の建築を切り離さず、昔から続く建築の伝統や歴史を受け継ぐ姿勢が根付いています。日本では、近代とそれ以前とが切り離されてしまっていて、そこに歪みを感じていました。

僕がロンドンで所属していた事務所では、街並みや文化全体に対して、建築の規範となる美意識みたいなものが共有されていた気がします。すでにそこにある町並みの文脈を読み解き、どう現代的な建築を挿入するかが前提にあるので、ただ突飛なだけの建築はあまり評価されません。

でも日本の建築教育では、アイデアが尖っていることばかりが評価される風潮が強いので、そうではない建築の価値観があることをヨーロッパで学びました。

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設計を手掛けていただいたラベンハム 新丸ビル店は、どのようなイメージで設計されましたか?

まずラベンハムというブランドに対して、乗馬用のラグをナイロンで作ったことから始まったというのが、すごくイギリスらしいなと思いました。乗馬という貴族文化と工業国としてのイギリスの二面性が合わさったブランドだなと。インダストリアルな雰囲気と、古い時代から続いているイメージを表現するために、店内にはあえて無骨さを残して、繊細なディテールはあまりつくらないことを意識しました。例えば木材には、建築の構造材などで使われる、比較的安価でラフに扱える材料(パイン材など)の太い材を使っています。

全体のイメージとして初期に構想していたのは、ケトルズヤードという美術館です。ケンブリッジにある元ギャラリーキュレーター、ジム・イーデの自宅だった場所で、現在は彼のアートコレクションが公開されています。すごく好きな場所で、なんとなく目指す空気感が近い気がしたんです。古いレンガ造りの家に増築された部分があって、シンプルな白壁や木の床など材料的な無骨さもありながら、居心地の良さもある。ラベンハム新丸ビル店の一番奥まったフィッティングルーム周りは、工業的な側面と家庭のような落ち着きをミックスさせました。

日本に帰国してからはイギリスにまつわるものをデザインする機会はあまりなかったので、自分の中の引き出しにあったものを試すチャンスだと思い、現地で感じていた“イギリスの田園”の空気を独自に解釈して、反映させました。

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ラベンハム 新丸ビル店のインスピレーション源となった、イギリス・ケンブリッジにある「ケトルズヤード・ハウス」についての書籍。

ブラックエディション アンワディッド リブ ジャケット」をご着用いただいていますが、このジャケットを手に取った理由をお聞かせください。

形はすごくベーシックでシンプルなんですけど、デザインに遊びがあるところが気に入りました。光沢のある素材に、直線と円弧が組み合わさったステッチが入ることで生まれるランダムな凹凸がすごく面白くて。幾何学的でモダンな絵画みたいな表情に惹かれました。

洋服って、素材感やシルエットのちょっとした違いで差が出るのがすごいなと思います。それらは建築においてもとても意識していますが、少しの変化で印象が変わるという点が共通しているなと体感しています。中綿なしで軽いので今の時期もちょうどいいですし、室内で着ても違和感がなくて、装いに表現が生まれるのがいいですね。

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選んでいただいたジャケットは、ラベンハムのDNAを守りながら現代の空気を取り入れた「ブラックエディション」というコレクションです。建築においては、時代に応じて変わるべきもの、変わらない方がいいものは、どんなことだと思いますか?

どれを残してどれを変えていくかを意識する必要はないと思っています。大事なのは、これまでの歴史や積み上げてきたものを知って、それを自分の言語のように使いこなせることです。日本語も時代に応じて言葉遣いが変わったり、間違った日本語も定着すれば正しい言葉になり、辞書に載ったりしますよね。それと一緒で、「建築の言語」のようなものを習得していれば、意識しなくても時代に応じて適用させていける。それが“生きている”ということなんだと思うんです。

外国語も流暢じゃないと、教科書に載っているような文法を気にしちゃいますよね。その教科書的なものを突破して使いこなせないと、新しい言語表現はできない。そのためには、やっぱり学んでいかなければなりません。

とても腑に落ちました。「ブラックエディション」はラベンハムの言語の中で、言葉遣いが変化したようなコレクションなのかもしれません。

仮に定番の「クラシックス」だけで十分に売り上げが保てていたとしても、つくる人や売る人が面白くないと、それって持続可能ではないと思うのです。ものづくりが好きな人たちは絶えず新しいものをつくりたいし、自分なりのアイデアも取り入れたい。だからこそ完成された軸は保ちながら、そこから自由に広げていける環境をつくることは大事なんじゃないかなと思います。

つくり手や売り手が生き生きできることも、「持続可能」のひとつの形だと思っています。

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アンワデットのキルティングは、シワが目立たず生地に程よいハリ感が生まれるのも特徴。

着用アイテム:Black Edition Unwadded Rib Jacket Mens / ブラック エディション アンワディッド リブ ジャケット メンズ
https://www.lavenham.jp/collections/mens-black-edition/products/lv14007?variant=53829749965114

人間のアイデアや創作意欲の面での「持続可能性」という視点に共感します。
実際に、「ブラックエディション」で新しい挑戦をしているからこそ、「クラシックス」へフィードバックできることもある。相互に刺激し合うことでいいものが生まれるのだと思います。

人間はつくり続けずにはいられない生き物です。生きていく以上、何かしら新しいものをつくっていないといられない。僕も自分のスタイルを固定せず、そのときに応じて新しいことに挑戦していきたいです。

ラベンハムは、リペアしながら受け継いでいける長期的なものづくりを大切にしていますが、建築において「長く使われる空間」とは、どのようなものだと考えていますか?

一人の所有者がずっと使い続けていくというのも大事ですが、それって結構稀というか、なかなか難しい面もあると思っていて。人間も変わっていくし、洋服でも若いときのものが合わなくなったり、住宅でも家族構成が変わったりしますよね。それでも、自分の子供が受け継いだり、セカンドハンドで誰かが買ったりして、次の所有者に移ったときにもその良さがちゃんと生きていて、愛されていくことが大事なんだと思います。 

リノベーションしがいがある建築だったり、もともとあった部分と新しくつくった部分がいい具合に統合されて心地よい空間になっていたり。そうやって繋いでいけるのが理想です。だからその時代や要望に完全にフィットさせるというよりも、余白を持たせて大らかに捉えたいなと思っています。所有者が変わっていってても、芯が残るような建築をつくっていきたいです。

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長く受け継がれる建築をつくっていきたいという橋村さん。
「父親から受け継いだオメガの時計は、20年ぐらい使っています。シンプルで使いやすく年齢を重ねてからその良さが分かるようになりました。」

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橋村 雄一

一級建築士。多摩美術大学、University of East Londonで建築を学んだ後、英国のTony Fretton Architects、Carmody Groarke、日本の新素材研究所での勤務を経て、2015年に澤田航さんと建築設計事務所「Sawada Hashimura」を共同設立。2023年に「Studio Hashimura」へ改組。住宅・商業・オフィス・アート関連など幅広い空間を手掛け、既存の環境やそれぞれの目的を丁寧に汲み取りながら、独自の視点で空間をつくり上げている。

INSTAGRAM: @studio_hashimura
https://www.instagram.com/studio_hashimura/

Writer : Moe Shibata
Photographer:Takeshi Sasaki
Editor: Arisa Ogura

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