おすすめのキーワード
2014年にオープンした「メルシーベイク」。華やかな印象の強いフランス菓子を、日常に寄り添う身近な存在として提案し、多くの人に親しまれています。オープンから12年が経ち、現在はカフェ「シェ・ロナ」、ワインバー「エッフェル」と、新たな業態も展開。 今回は、3つの店舗を手がける田代 翔太さんにお話を伺いました。
まずは、お菓子の道へすすむきっかけについて教えてください。
実は最初は和食がやりたくて、小学校3、4年生の頃には食の道に進むと決めていました。料理の世界は早く飛び込んだ方がいいというイメージがあり、調理科のある高校に進みました。 そこでケーキ屋になるという先輩に出会い、僕の中では「そんな選択肢もあるんだ」と衝撃を受けて、そこから洋菓子に興味を持ちました。
その先輩が東京で就職するタイミングで、在学中にアルバイトをしていたケーキ屋に入れ替わる形で働けることに。初日の帰り道には、将来はケーキ屋になると決めていました。“これだ!”と感じた、そのときの嬉しさや ワクワク感は、今でも思い出せるくらい強く残っています。
ご自身にとって初の店舗となる「メルシーベイク」について、オープンの経緯を教えてください。
当時、フランス人パティシエのお店が日本に進出してきたタイミングで、その洗練されたケーキにかっこよさを感じていました。その流れで、最初は東京のホテルで働き、フランス人パティシエと一緒に働く機会もありました。ホテルで3年勤めたのち、現地で働くためにフランスのリヨンという街への留学を決めました。あてもなく渡仏したのですが、半年ほどで働くお店が見つかり、結果的に3年ほど現地で修行をしました。
帰国後に独立を考えていた中で、かねてより交流のあった相場正一郎さんの新店の立ち上げから関わらせてもらい、パティシエとして勤務しながら開業の知識を身につけることができました。そこで2年間経験を積んだのち、2014年にメルシーベイクをオープンしました。
「メルシーベイク」は、どんな想いで生まれたお店ですか?
添加物や着色料、旬ではない素材を使うことや、売れ残りを廃棄することなど、業界のあり方に違和感を感じていたし、流行りの似たようなフランス菓子が並ぶ中、もっと違う表現ができないかと考えていました。でもフランス菓子の概念にとらわれなくていいと割り切ったら気持ちが軽くなって、自分がやりたいことをやってみようと思えました。
ベースにあるのはこれまで培ってきたフランス菓子の技術なんですが、“フランス菓子”と聞くと構えてしまうので、あえて前面に出していません。特別な日のためのケーキではなく、明日もまた食べたくなるような日常的なケーキをつくりたかったんです。実際に帰り道に1個だけ買っていかれるお客さんも 多いです。自分がやりたいことをやった結果、予想以上に反響の大きさを感じました。
「メルシーベイク」を12年続けてきた中で、変わらずに大切にしていることは何ですか?
一番は“鮮度”です。焼き菓子は日持ちするものというイメージがありますが、やはり一番 おいしいタイミングがある。生菓子だけでなく、焼き菓子にもフレッシュさがあると思って いて、その状態で提供したいんです。そのために、つくりすぎないことを徹底しています。 自分が店をやるならケーキを廃棄するは絶対したくなかったので、この12年間で一度も捨てていません。これは自信を持って言えることです。
逆に、変わったことはありますか?
僕がしっかりスタッフに任せるようになりました。元々はできるだけ自分でやりたくて、当初はかなり細かく指示していました。でも任せてみると、その分スタッフが成長して、自分も時間を新しいことに使えるようになる。そうやって、新業態であるカフェ「シェ・ロナ」にも挑戦することができました。店舗が増えると物理的にどちらかにしか立てないので、僕がいない時間も自然と増えていきます。その時間もまた、スタッフの成長につながっていると感じています。自分がやりすぎると、成長の機会を奪ってしまうんだと気づきました。 今では、スタッフが僕よりも美味しいものを仕上げることもあって、それがすごく嬉しいんです。信頼できる手が増えた感覚ですね。
カフェ「シェ ロナ」はどんなお店ですか?
「メルシーベイク」ではフランス色を前面に出さなかった分、カフェ「シェ・ロナ」にはたまっていたフランス愛を詰め込みました。フランスのどのカフェにもあるような、クラシックでシンプルなデザートを提供しています。「メルシーベイク」に通ってくださっていた方にも、「シェ・ロナ」を通して、僕のルーツのようなものを感じ取っていただけた気がします。
「シェ・ロナ」には、お子さん連れの方もいれば、ひとりで少しだけ飲みに来られる方もいます。そういう光景がすごく好きで、自分自身が「こういう場所があったらいいな」と思っていたものが、形になっている感覚があります。甘いものをきっかけに、その先にワインがある。それってフランスではごく自然な日常の風景なんです。
昨年は3業態目となるワインバー「エッフェル」をOPENされましたが、こちらはどんな想いでスタートされたのでしょう?
「シェ・ロナ」でワインを扱い出すようになって、信頼できる酒屋さんやインポーターの方々との出会いもあり、もっと本格的にワインを扱いたいと思うようになりました。「シェ・ロナ」は昼間だけの営業なので扱える本数にも限りがあって、もう少しきちんと向き合いたいという気持ちがだんだん強くなっていったんです。 ナチュラルワインは大量に生産できるものではなく、つくり手の想いが詰まっています。 自分自身もつくる側なので、つくり手の立場だったらと考えると、いい状態で管理しながら、責任を持って扱いたいと思うようになりました。
でもリスペクトがあるからこそ、ケーキ屋の傍らでは難しいと感じていたし、自分ひとりでは店舗を増やす余裕もありませんでした。そんな中で、同い年のソムリエの庄司が前のレストランを辞めたタイミングで「一緒に何かやろう」という話になり、彼になら任せられると思えたんです。彼がいることで「シェ・ロナ」のセレクトもより充実しましたし、スタッフへのワインの教育も担ってもらっています。ケーキだけのお店では生まれない相乗効果のような広がりを感じています。
「エッフェル」では、3階にワインセラーを構え、ソムリエの庄司さんがセレクトした信頼できる生産元のワインが楽しめる。
田代さんのレシピによるスイーツも、ほんのり塩気を効かせたチョコタルトや、ワインと相性のいいチーズを使ったチーズケーキなど、“エッフェル仕様”のラインナップ。
3つのお店を行き来されている田代さんですが、お仕事の際はどのように洋服を着用されていますか?
お店にユニフォームはなく、服装は自由で最低限のルールだけ設けています。僕自身は数年前からエプロンをつけるのもやめました。黒いTシャツを何枚も用意して、それをエプロン代わりにしています。 そこに黒いパンツと靴を合わせるのが基本で、仕事の日は毎日同じ服装です。業態も増えて厨房にいない時間もありますが、 この服装ならそのままさっと厨房に入れる。そういう面でも効率的なんです。お菓子屋の厨房って、冷房がかなり効いていて、首まわりなんかは特に冷えます。そういう時にも、ラベンハムのジレは最適です。エプロンのように肩もこらないし、実はめちゃくちゃ実用的。外に出るときも、羽織るだけでスタイルが決まります。
パリのカフェでも、クラシックな制服としてジレを着ていることが多くて、布巾やチップをポケットに入れたり、ちょっとしたものをさっとしまえたりと、実用性が高いんです。そう考えると、仕事着としてジレを取り入れるのは理にかなっているのかもしれないですね。洋服を長く着たいという気持ちがあって、この数年で人に譲ったり売ったりして、かなり数を減らしました。だから自然と、日常でも飽きのこない黒い服が増えています。どんどん自分の服装がシンプルになっているので、そこに足すものとしてもジレはいいなと思いました。
「着ていてすごく気持ちがいいです」。
肌離れがよく、春夏シーズンのレイヤリングに最適な裏地メッシュ仕様。
ジャケット「テイナム」はどのように選ばれましたか?
薄い襟付きのジャケットが欲しいと思っていて、気になるジャケットがいくつかあった中でこれを選びました。仕事でも車に乗ることが多くて、一瞬外出る時にバサッと羽織るのにちょうどいいんです。デザインもきれいで、仕事の移動にも普段の装いにも活躍しています。
ラベンハムを選んでいただいた理由があれば、教えてください。
老舗としての歴史があり、軽い気持ちでものづくりをしていない。そのうえで新しい取り組みにも挑戦されているところに共感します。 裏地に検品をした方のサインが入っているというお話も伺って、自分もつくる側だからこそ、こうした作り手の思いを感じられるものには、すごくテンションが上がります。こういう取り組みをしているブランドって、意外と少ないですよね。 人を大切にしていることが、しっかり伝わってきます。
自分たちがやれることを自分たちのペースで、基本的にずっと変わらないスタイルでものづくりをしています。 とはいえ人々のライフスタイルは変わっていっていくので、そこに対して新しいアプローチができればいいと 考えています。
「メルシーベイク」もお店を長く続けたかったので、流行りのお店にならないように気をつけていました。お客さんが増えたからといって無理に数をつくったり、ビジネスチャンスだからと規模を広げたりはしませんでした。お店が忙しすぎるとスタッフが疲弊してしまうので、それをコントロールするために、あえて定休日を増やすこともしました。
勇気のいる決断でもありますよね。ラベンハムの工場も、その考え方に近い気がします。イギリスのサフォーク州 という田舎の小さな工場でつくっているんですが、日本で売れたからといって生産数を増やすと、ペースを崩して 他方面で無理が出てしまう。今は週4日稼動とすることで、工場のエネルギーをより効率的に使い、労働者も休める環境をつくっています。
店で変わらないお菓子づくりを続ける理由を教えてください。
僕は、自分たちが毎日同じものをつくることに、すごく意味があると思っていて。それが一番の自分たちの メリットであり、そこに楽しさを見出しています。やっぱり「お店がいつもそこにあって、いつでも待っています」という方が、僕は好きなんです。
田代 翔太
東京のホテルで製菓部門に勤めた後、フランス・リヨンのパティスリーにて修行。帰国後は専門学校での講師やメニュー開発、レストランのパティシエなどに携わったのち、2014年に自身のフランス菓子店「MERCI BAKE」をオープン。2021年にカフェ「CHEZ RONA」、そして2025年にはワインバー「EIFFEL」をスタートし、フランス滞在中に感じた現地の空気感やカルチャーを、さまざまな業態で表現している。
Instagram:@chaudta
【EIFFEL】
フランスや日本のナチュラルワインを中心にセレクトしたワインバー。グラスが進む料理や、田代さんによる“おつまみデザート”が楽しめる。真摯に向き合い、丁寧にセレクト・管理された1本は、ソムリエに料理や好みに合うものを提案してもらうのも醍醐味。1階のカウンターや2階のこぢんまりとしたテーブル席など、どこを選んでも不思議と落ち着く基地のような空間が、心地よい夜を演出する。
- 〒154-0001 東京都世田谷区池尻2-31-17
- 営業時間 15:00pm - 24:00am
- CLOSED: 不定休 *Instagramにて告知
- Instagram: @eiffeljapon
Writer : Moe Shibata
Photographer:Shotaro Suganuma
Editor: Arisa Ogura