A Jacket Well Worn: 三宅 理子さん

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「A Jacket Well Worn」根室編。前回、ジュエリーデザイナーの古川広道さんに続き、第二弾ではパートナーである 理子さんにお話を伺います。

5年前に根室へ移り住み、2025年、日本本土最東端の納沙布岬からほど近い“最端の地”に、コーヒーショップ『coffee & souvenir Boutique』をオープン。今年春からはお土産の取り扱いもスタートするのだとか。

今回は夫である古川さんにも加わっていただきながら、根室での暮らしやお店のこと、自身の変化について、お話を伺いました。

まずは、根室に移り住むまでの経緯を教えてください。

実家は愛媛ですが、10代で上京してからはずっと東京に住んでいました。自然に囲まれた環境で育った反動もあってか、都会が大好きで、東京での生活が本当に楽しかったんです。だから、北海道の自然やゆったりした空気にも興味がなかったし、北海道自体も、友人の結婚式で札幌を訪れたことがあるくらいでした。

でも、東京を十分楽しんだこともあり、全然知らない土地に住んでみたいと思うようになったんです。そこでイギリス留学を決めたんですが、コロナの影響で叶わなくて。東京の家を引き払う手配はしてしまっていたので、まずはいろいろな土地に足を運んでみようと。そんな時、偶然立ち寄った「AVM」の展示会で夫と出会いました。

根室という土地でものづくりに向き合う姿勢や背景がそのときの自分にすごく刺さって根室に移り住むことを決めたんです。戸惑いは全くなくて、むしろ全然知らない土地に行けるということにウキウキしていましたね。周りの人にはすぐに飽きて帰ってくるだろうと言われてたんですけど、1日たりとも同じ景色がなくて、毎日飽きない。すごく楽しいです。

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「coffee & souvenir Boutique」をオープンするに至ったきっかけはありましたか?

きっかけは、完全に場所です。とにかくこの場所に惹かれて、ここで何かやりたいと思ったんです。初めて訪れたときに、店の目の前のオホーツク海が一面流氷に覆われていて、ギシギシと音もするんです。その圧倒的な光景に心を打たれてしまって。そのとき感じた「今からこの場所で何かが始まるんだ」という高揚感は、10代で田舎から上京して、東京の高層ビルやネオンを見上げたときに感じたものとまさに同じでした。

東京で季節を感じる瞬間って、お店のディスプレイだったりしたんですけど、それらは人に見られることを目的に、人の手によってつくられたものですよね。でも自然は誰に見せるわけでもなく、流氷も偶然そこに居合わせたからこそ見られたもの。なんだか秘密の場所みたいな感じがして、今まで感じたことのない気持ちになったんです。人が誰かのためにつくるエネルギーとは全く違うものを、目の前に広がる自然に対して感じました。

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【写真】理子さんが流氷を初めて見た、店の裏の海岸。冬になると毎年流氷が広がるそう。

お店は街から少し離れた根室半島の端にありますが、どんな方が訪れますか?

旅人がふらっと来てくれるといいなと思っていたんですが、嬉しかったのが、根室に住む方々がたくさん来てくれたこと。ぽつんとある店なので、わざわざ足を運んでいただけるとは想像していなかったんです。
「あ、久しぶり」と地元の人同士が再会する場所にもなっていたり、このお店を通して、地元の方々との
つながりがすごく増えました。

この建物も、元々漁師さんたちが使っていた小屋だったんです。天井を抜いて高くしたりはしましたが、小屋の雰囲気をそのまま残したかったので、あまり手は入れていません。ここにある剥製たちも、この土地だからこそ巡り合えたものです。何かコンセプトがあって探したわけではなく、お客さんが譲ってくれました。根室という土地に生きる動物たちだからこそ、自然とここにある。それもやっぱりこの場所ならではなんですよね。

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店名に「coffee & souvenir」と付いていますが、お土産も販売されるのでしょうか?

今年の春ごろから、お土産の販売も始める予定です。根室の方々にも楽しんでいただきたいので、根室に限らず、北海道東部のものを中心にセレクトしようと考えています。私自身、旅が好きで、海外でも国内でも、旅先では必ず現地のお土産屋さんに立ち寄ります。店主の個性がにじむセレクトだったり、ちょっと変なものが並んでいるお土産屋が大好きなんです。

たとえばキューバでレースが有名な街を訪れたとき、どのお店も似たようなレースを扱っている中で、他にはない絵柄のレースが並ぶお店がありました。店主のおばちゃんの雰囲気や人柄がそのままレースに表れているようで、なんだかとても可愛くて。そういう、土地や人の記憶ごと持ち帰れるお土産屋さんが、私にとっての理想なんだと思います。

この店でも、売れるものではなく、自分が本当にいいと思ったものを置いていきたい。これまで誰にも目を向けられてこなかったものを見つけたり、自分でつくるオリジナルのものも並べたいですね。

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コーヒーとお土産が並ぶお店、とても楽しみです。どんなお店にしたいですか?

特に旅先として訪れた方にとっては、その瞬間だけの出会いになることも多いと思います。だからこそ、この根室という地の空気や体験ごと、記憶に残るお店になれたらいいなと意識しています。

この窓も、そのための工夫のひとつです。その時々の景色がより印象的に映るように、窓の位置や大きさにこだわって、ひとつの絵のように見えるよう枠をつけました。外に出て同じアングルで撮るのと、店内でこの窓と一緒に撮るのとでは、全く印象が違うんです。

コーヒーの味、景色、店内の空気感、会話も含めて、すべてがひとつの記憶になって、一緒に持ち帰ってもらえたらいいなと思っています。

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店に立つときの洋服選びは、どんなことを意識されていますか?

先ほどお話ししたキューバのおばちゃんもそうですが、旅先で立ち寄ったお土産屋さんの店主のことって、意外と覚えているんですよね。私自身も根室での思い出の中の一部になれたらいいなと思っていて、洋服も印象に残るよう意識しているかもしれません。そういう意味でも、今着ている「ブラック エディション」は、エッジが効いているところが好みです。シャツにも丸襟にも合わせやすいので、中に着るものを変えたり、アクセサリーを足したりしながら楽しんでいます。

私の地元である愛媛にも、子どもの頃の記憶に残っているお店がいくつかあって「あのおばちゃん、いつもキラキラした服を着てたな」「パーマ、すごかったな」とか、今も覚えているんです。きっとその人の佇まいや空気感ごと、ひとつの思い出になっていて。そんなふうに、地元の子供達だったり旅人だったり、店主とセットで誰かの記憶の片隅に残るお店になれたらいいなと思います。

今お話に上がった「ブラック エディション ウォッシュド ボンバー ジャケット」は、どんなところが気に入って選ばれたのでしょう?

このリブが本当に重要で、少し長めのしっかりとしたリブがあるおかげで、手元がもたつかないんです。お店に立つときもスムーズに動けて邪魔にならない。軽くてちゃんとあたたかいし、やっぱりショート丈というのも、車社会に合っていると思います。

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古川さん:僕の場合は、釣りの時に水の中に手を突っ込まなきゃいけない場面があって、サッと袖口を上げやすいんです。それぞれの用途に合ってて面白いよね。

毎日コーディネートはどのように決めていますか?

根室に来てから、前日に過ごした景色や気持ちが、自然と服選びに影響するようになった気がします。たとえば、森に行った翌日は深い緑を着たくなったり、川に行った次の日は少し淡い色を選んでいたり。前の日の空気や気持ちが体に残っているんだと思うんですが、それはきっと毎日見る景色が違うからだと思います。

古川さん:景色が毎日、1日の中でも目まぐるしく変わっていくから、本当に飽きないよね。同じ景色だったことなんて一度もないし、同じ写真なんて二度と撮れない。それがとっても面白い。

狩猟もされるそうですが、どんなきっかけで始めたのですか?

根室に来てから釣りを教わったんですが、初めて鮭を釣ったときのことが忘れられなくて。イクラから身まで、鮭一匹をまるごとで食べて、思わず涙が出たんです。今まで命のありがたさを意識してきたつもりでしたが、そんなレベルじゃなかった。

釣りは、糸一本で魚とつながっているから、生命力がダイレクトに伝わるんです。逃げようとする鮭の力は本当に強くて、糸が指に食い込み、摩擦で血が出ることもあるほど。それでも、「こっちも負けるか」と踏ん張る。その命のやりとりを体感したうえで、今それが食卓に並び、これから私の中に入るんだと思ったときに、なんとも言えない気持ちになったんです。

古川さん:糸で繋がっているときの躍動感や力強さ、それからその味。それらが全てひとつになって自分の中に入ってくるから、その鮭の命のパワーを丸ごと受け取っている感覚になるんです。

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そうそう。その力やエネルギーをはっきり覚えていて、そのときのことばかり思い出してしまう。
それを味わったうえで、自分で狩猟をして、それを食べるときにどんな気持ちになるのか。それを知るために狩猟免許を取りました。

自分が身をもって何かを体験することで、お店にも落とせるものがきっとあると思ってて、狩猟もそのひとつです。 私がその体験で得たものを誰かに売ったり、伝えたりすることで、思い出の体験として持って帰ってもらえればいいな。東京にいたときは都会が大好きで、釣りや狩猟なんて全く興味がなかったんですけど、この土地に来て圧倒的な自然の力を感じたときに、何か別のスイッチが入ったような気がします。

古川さん:釣りも狩猟もそうだけど、本能や自分の中に眠っている感覚が呼び起こされることって
あると思うんです。気づいていないだけで、実はみんな元々持っているものなんじゃないかなと。
でも普段の生活の中では、閉じてしまっているだけなんだと思います。

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内面にも、変化はありましたか?

「何かができなくなる」ということに、あまりストレスを感じなくなりました。都会は24時間お店は開いているし、何でもすぐに手に入る。どうにかしようと思えばできてしまう環境だったんですが、自然のサイクルは絶対に変えられない。山菜や魚がいない年もある。そんな時は「しょうがないね」って受け入れる器みたいなものが養われたような気がします。

古川さん:たとえば鮭が減ってきたと感じても、「じゃあ別の場所に行こう」とは思わないですね。今年はいないんだから、しょうがないなって。自然は自然だし、自分もその一部なので。

自然環境とは別に、その「どうしようもなさ」が楽しい時もあります。たとえばこの街にないものがあっても、「隣町まで行こう!」って逆にウキウキしたりもします。

古川さん:この店も、そんな楽しみのひとつになったら嬉しいですね。

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最後に、根室という土地の魅力を教えてください。

北海道の中でも根室ってすごくかっこいい街だと思っています。ここに来て気付いたのは、山がないから星空がすごく低い位置から広がっているということ。その抜け感が好きです。

それから太平洋とオホーツク海とふたつの海に挟まれているから、どっちからの風も吹いてきて、空気がスカッとしていて気持ちがいい。でも寒くて風が強くて、厳しさもある。そんなところが好きですね。

古川さん:山に囲まれていないので、閉塞感がないですね。古くはアイヌの人たちも貿易が盛んでしたし、漁業も魚を外に獲りにいくっていう性質もあって、海に囲まれている根室は、自分たちのような移住者も受け入れられやすいかもしれないです。

根室には野生動物が多く住んでいて、人の気配が少ない場所がたくさんあります。長年東京に住んで環境を変えたかった私にとっては、そんな環境もよかったのかもしれない。

根室に住んでいると、例えば「ワカサギの時期だから釣りに行かなきゃ」とか、その季節ごとの魚や山菜を逃さずに楽しむのに忙しいんです。自然は待ってくれないですから。だから全く飽きないし、そんな生活が今はすごく楽しいです。

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三宅 理子

愛媛県出身。東京でグラフィックデザイナーとして長年活動したのち、2020年に根室へ移住。2025年に「coffee & souvenir Boutique」をオープン。地元の人々や旅人が集う憩いの場としてコーヒーを提供する一方で、狩猟免許を取得し、夫でジュエリーデザイナーの古川広道さんとともに大自然の中での暮らしを楽しんでいる。

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coffee & souvenir Boutique

手つかずの自然が残る北方原生花園の向かい、オホーツク海を望む根室半島北部に、ひっそりと佇むコーヒーとお土産の店(お土産は今年春よりスタート予定)。オーナーの理子さんが惚れ込んだ珈琲豆を用いたこだわりの1杯を求めて、旅人や地元の人々が足を運ぶ。
コクと甘みが特徴のおこっぺ有機牛乳でつくるラテや、北海道のてんさい糖を原料とするビートシロップを加えたコーヒービート、ラテビートなど、地元食材を生かしたメニューも人気。

〒087-0167 北海道根室市豊里7−7
営業時間:11:00am-15:00pm
定休日:月曜日 ~ 木曜日
INSTAGRAM: @coffee_souvenir_boutique

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